FC2ブログ
121234567891011121314151617181920212223242526272829303102

標的の印



 グレイ×アリス
 ダイヤの国のアリス・WワークEND後設定




「グレイって今も暗殺者なのよね?」

 夜の時間帯、人が疎らな駅の構内で見慣れた顔を見つけた。
 此処にいる時の駅員の姿ではない、私服姿のグレイ。それは彼がもう一つの仕事をしてきた事を意味している。
 微かに鼻につく血の臭いからも、それは解りきっているのにアリスは何故か彼自身に問いかけていた。

「当たり前だろ? 悪いが俺には人を殺す趣味は無いぞ」
「そ、そうよね。でもグレイは依頼を受ければ、誰でも……」
「ああ、相応の報酬は貰うがな。なんだ? 俺に依頼したいのか?」
「違うわよ! そうじゃなくて……もしも、もしもね、私を殺せと言われたらどうする?」
「はあ!?」

 グレイの口から思わず間抜けな声が出てしまった。何を言い出すのかとアリスの方を見れば彼女は僅かに微笑んでいる。
 今投げかけられた問いとその表情のギャップに、グレイはただ見つめる事しかできない。

「グレイ?」

 心配そうな自分を呼ぶ声に漸くグレイは我に返り、その視線を彼女から外す。

「そんなもしもの話、考えるだけ時間の無駄だろう?」

 出てきた言葉は、適当に誤魔化すだけのもの。
 それでもアリスはその答えでも満足なのか、浮かべた笑みをこちらに向けたままだった。


        ○●○●○●


 そんな会話をまだはっきりと覚えられているくらいにしか、時間は経っていない夕方の時間帯。
 グレイは帽子屋領のとある屋敷内にいた。
 顔の見えない役無しの中でもそこそこに存在だけは知られているその男と、グレイは初めて対面した。
 評判のわりにまだ若い男は一枚の写真をグレイの前に差し出す。

「っ!?」

 写真を見たグレイは、男に悟られない程度の動揺を見せた。
 そこに写っていたのはアリス、その服装からまだ彼女がこの帽子屋領土内にいた頃のものだろう。

「こいつを殺せばいいのか?」
「ああ」

 ニヤニヤと不快感たっぷりの笑みを浮かべる男は、もう良いだろうと言うかのようにグレイに見せた写真を大事そうに引き出しに仕舞う。

「そうだ、一つ条件があるんだが。良いだろうか?」
「条件? なんだ、殺し方の注文か?」
「ああ。完全に殺さずに連れて来て欲しいんだよ」
「あ?」

 何を言っているんだと、露骨に睨みつける。しかし男にはまったく効いていないのか気味の悪い笑みのままだ。

「彼女を此処に連れて来て欲しいんだよ。殺さずにね」
「あんた、俺の職業を解っているんだよな?」
「解っているさ。グレイ=リングマーク、君は暗殺者だ。だが君ほどの実力者なら出来るだろう?」

 そう言う事でグレイをたきつける魂胆なのだろうか。
 これが他の奴らならばそれに乗ったかもしれない。
 もしくはそれが違うターゲットならば、だろうか。見せられた写真がすぐには表情が解らないような役無しだったら自分は何と答えるだろう。

「それを考えるのも時間の無駄か」
「何か言ったか?」

 考えるべきは、今目の前にある事のみだ。そしてグレイの答えは決まっている。

「悪いが、この仕事は請けられない」
「なっ!? ど、どうしてだ! 報酬は弾むぞ……それとも、私の依頼を遂行する自信が無いのか?」
「そんな挑発には乗らねえよ。そもそもこれは暗殺者にする依頼じゃねえだろう」

 そう吐き捨て部屋を出ようとしたグレイを、男はまだ納得出来ていないのか引き止めてくる。
 耳障りなその声にグレイは振り向くと同時にナイフを投げつける。それは、男の頬に一筋の傷をつけそのまま壁に突き刺さる。

「ひっ!?」
「あんたの趣味をとやかく言う資格は無いから黙っておくが、そういうのは他人を巻き込まずに楽しめ」
「な、何の事だ!」

 この男が私怨目的で依頼してきたのではない事は解っている。大方アリスがまだこの領土にいる時に一方的に知って惚れたのだろう。
 それか珍しいものを収集したいだけか。どちらにしても悪趣味な事この上ない。

「なんだ、はっきり言わないと解らねえのか? 監禁とは、趣味がいいなぁ坊ちゃまよ」

 口角を歪ませ、悪そうな笑みを浮かべながらゆっくりと男に近づく。次第に男の顔には冷や汗が滲む。

「女を手に入れたいのなら、自分の手でやりやがれ。まぁあいつに手を出そうとしやがったら、俺が先に殺してやるがな」
「……ふっ、お前ほどの暗殺者が余所者にやられたという訳か」
「ああ、そうだよ。俺は自分の獲物を簡単に人にくれてやるほどお優しくないんでね」

 言うのと同時に二本目のナイフを男に向かって投げる。それはさっきとは反対の位置に傷をつけ、壁に刺さる。

「三度目は無いからな、覚えておけよ」

 そう言い残してグレイの姿は一瞬で消えた。
 残された男は両頬から流れる血を拭う事無く、ただ悔しそうにテーブルに両の拳を叩きつける。
 しかしその手はガタガタと震えていた。


        ○●○●○●


 グレイが駅に戻ってきた頃には時間帯が変わり、昼になっていた。

「あ、グレイ! おかえりなさい」

 駅員の制服姿のアリスが駆け寄ってくる。
 いつもとは違うヒールのある靴でのそれは見ているだけで危なっかしい。
 グレイが転ぶぞ、と言うよりも前に案の定アリスの足はタイルの境目に躓く。
 とっさに倒れそうになるアリスを支える。転びかけた拍子に帽子が落ち、纏めていた髪が解けた。

「おっと……! 気をつけろ」
「ありがとう」

 リボンを付けていないその見た目は、見せられたあの写真のアリスと似たような雰囲気だった。

「グレイ?」
「あ、いや何でもない……」

 アリスから躰を離して帽子を拾い手渡す。ありがとうと言いながらアリスは馴れた手付きで髪をまとめあげて帽子を被る。
 その一連の様子をグレイはジッと見つめていた。

『私を殺せって言われたらどうする?』

 アリスがそれを言ったのはつい最近の事だ。
 あの時は深く考えず、いや考える事が出来ずに曖昧にしか答えられなかった。

(俺が依頼を受けると思ってんのか? あんたを殺す依頼を)

 グレイが反故にしてきたような類ではない。
 アリスが仮定したのは恐らく、彼女の元友人にあたる男からの依頼なのだろう。
 退屈を嫌うあの男が考えそうな、趣味の悪い『遊び』だ。

(誰がそんなもの受けるかよ……)

「アリス」
「何?」
「あんたは、俺のだ。だから誰にも渡さねえよ」
「……はっ!?」

 どういう意味よ!! と顔を真っ赤にして叫ぶアリスを抱き寄せる。そしてその白い項にキスを一つ。
 その瞬間にビクリと躰を震わせるアリスの反応が面白くて、もう一度今度は僅かに痕を残すように口付けた。

コメントの投稿

secret

top↑

comment

プロフィール

水青 奏

Author:水青 奏
好きなもの
・SOPHIA
・SoundHorizon
・乙女ゲー
・文字書き

初めましての方はまず
『始めに』をご覧ください。

最新記事

カレンダー

12 | 2019/01 | 02
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

月別アーカイブ

カテゴリ

最新コメント

twitter

FC2カウンター

リンク

ブログパーツ&バナー

検索フォーム