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秘密はカップに隠して



 グレイ×アリス
 フォロワーさんからのリクエストです(教師グレイ×生徒アリス・片想い)





 たまに思う『優等生』なんて言われたくないと。

 この学校に入学して一年半が経った。憧れの学校……姉も通った学校。
 入学してすぐに感じたのは先生達が私を『ロリーナ=リデルの妹』として見ているという事。
 だからだと思う、気がつくと優秀な生徒で居たいと思うようになった。
 他人の中にある姉のイメージを壊したくなくて、それに姉の中での私のイメージも壊したくなかった。
 そう、最初は姉の為だった。けれど今は……それともう一つ理由がある。
 そしてそれが言われたくないと思う理由でもある。


        ○●○●○●


「失礼しました」

 ペコリと頭を下げて教員室のドアを閉める。少しだけ長居してしまったのは担任に呼び止められたせいだけじゃない。

(居なかった……)

 キョロキョロと周りを見ていたら、時間なのか?と先生に気遣われて話は終わってしまった。
 大きなため息を一つ吐き、ドアから一歩ずつ離れていく。

「アリス?」

 低い声…ずっと聞きたかった声が聞こえた。くるりとその声がした後ろを振り向けばその人が立っていた。

「グレイ先生!」
「珍しいな? 君が教員室に用があるなんて」
「プリント提出があったから、皆のをまとめて持ってきたんです」
「もう帰るのか?」
「はい。そのつもりです」
「良ければ、味見して貰いたいものがあるんだが、時間はあるだろうか?」
「はい!!」

 グレイ=リングマーク先生。
 一年生の授業は受け持っていなかった彼とこうやって話すようになったのは今年に入ってから。
 授業時は白衣羽織りに眼鏡姿、普段でもびしっとしたスーツ姿の彼は生徒達からは少しだけ怖がられている印象があった。
 けれどその見た目から女子には人気があるようで、休み時間や放課後になると数人の女子生徒に囲まれている彼を何度も見た事がある。
 私が授業以外で先生と話すようになったのは、今日みたいに別の先生に頼まれて教員室を訪れたその帰りだった。

『あまり無理はしないようにな』

 彼もまた私の姉を知っている教師の一人……なら、ちゃんとしなければと思った矢先に先生はそう言った。

『は、はい』

 いつもならば、頑張りなさいと言われるだろう場面。
 聞きなれない言葉に反応が遅くなってしまったのを覚えている。
 そして次の日、また放課後に今度も廊下ですれ違った先生は、時間はあるか?と聞いてきた。
 所属している委員会の活動日でもなく、部活には入っていない私にとってその日はもう家に帰るだけで、思わず首を縦に振っていた。
 通されたのは保健室。保健委員の担当でもない先生が何故この部屋に自分を呼んだのか……その謎はすぐに解けた。
 いつもならば診察で使う椅子に座り待っているようにと言われて数分。薬品の臭いしかしないだろうこの部屋には似合わない甘い匂いがして

『甘いものは平気だったか?』

 そう言って差し出してきたマグカップの中には甘くて美味しそうなココア。はい、と笑顔でそれを受け取り一口飲む。

『すごく美味しいです!!』

 思わず大きな声が出てしまい、赤くなる私に笑顔を見せる先生。
 私はその瞬間に……恋に落ちたのだと思う。
 なんの気まぐれかは解らない。けれど先生はそれ以降何度もこのココアをご馳走してくれた。
 そして今日も……定位置の丸い椅子。先生はいつもなら保険医が座る椅子にと向かい合わせでただココアを飲む。
 この時だけは誰にも邪魔されない、二人きりの時間。
 だけど……

「先生? 味見って言ってませんでした?」

 手渡されたココアはいつもと変わらない味だし、それに関しての感想も聞かれない。

「ああそうだった。忘れていたよ……」

 そう言うと席を離れ、別室に行ってしまった。戻ってきた先生の手には白い皿、それに乗っていたのは少し不恰好なクッキーだった。

「これを君に食べて貰いたくて呼んだんだよ」
「先生が作ったんですか?」
「ああ、部活の生徒達にだいぶ手伝って貰ったがな」

 先生が料理部の顧問をしていると聞いたのはこうやってココアを飲むようになってすぐのこと。
 ちょうど顧問の先生が一人いなかった事と、料理には興味があったからというのが引き受けた理由らしい。
 メインの先生は別にいて自分は手伝いだけだと言っていたのに。

「昨日作ったものなんだが、休みの生徒がいた分材料が余ってたな。だったら作ってみないかと誘われたんだよ」
「先生の手作り……」

 そう言われると皿に乗ったクッキーが特別なものに見えてくる。
 端っこに置かれたのを一枚手に取り、ぱくりと齧る。サクサクというよりはしっとりとした触感。

「……」
「どうだろうか?」

 不安げに見つめる先生に、喜んでもらいたいが……ここで嘘を吐くのも失礼な気がするし。

「アリス、正直に言ってくれ……」
「う……美味しくないっていうわけじゃないの! でもなんか……味がしないというか」

 例えばこれがスコーンだというのならばまだ良い。でも先生はクッキーだと言った。それでこの味の無さはやっぱりおかしい。

「そうだな……教えてくれた生徒たちも首を傾げていたよ。どうしてこうなったんだろうって」

 申し訳なさそうに笑う先生……その表情に私をからかった様子はない。ただ純粋にこれを食べて欲しかっただけ。そう思うと味の無いクッキーでも大切なものに見えるから不思議だ。

「ジャムがあるからこれを付けて食べてくれ。こんなもので済まないな……だが、君に食べてもらいたいと思ったんだ」
「私に?」
「ああ、いつもココアだけでは物足りないだろう?」

 嬉しい……でもこれ以上勘違いしてしまいそうな事を言わないで欲しい。
 私の為なんて、私が特別な生徒なんだって思い込んでしまいそう。

(生徒……グレイ先生は教師なんだよ)

 もしかしたら気を使ってくれているんだろうか?
 担任ではないが、教師ならば私の家庭環境は知っているはず。
 母が居ない事を、亡くなっている事を知っている可能性がある。
 だからなのかな?
 先生に会ってから、好きになってから、優等生なんてやめたいと思ってた。
 彼に話しかける切欠がないから、授業で解からなかった所を聞きにいける他の子達が羨ましかった。
 でも、このままでいれば先生は私を誘ってくれるのかな……?
 生徒としてしか見られていないなんていう当たり前の事にショックを受ける自分と、その生徒の中でも少しだけ特別に見られているのかなと期待してしまう自分がいる。
 何かを言ってしまえば、簡単に壊れてしまいそうで何も言う事は出来ない。

(それとも私はこのままでいいのかな?)

 まだまだ気付いたばかりの気持ちは自分自身にも解かっていない。


        ○●○●○●


 アリスが帰った後の保健室。
 いつものように食器を片付けるグレイの背後に忍び寄る影が一つ。

「グ~レ~イ~。またあの子が来ていたのか?」
「ええ」

 白衣を着込んだ青白い顔の男、本来のこの保健室の主であるナイトメア。
 本人こそ医者に診てもらえと言いたくなるが、れっきとした保険医である。

「ふ~ん。お前にしてはマメだな? そんなに一人の生徒を気にかけるなんてな」
「そうですか?」

 しれっとした表情でマグカップを洗うグレイの後ろ姿を見ながら、ナイトメアは呆れ顔で続ける。

「何を白々しい」
「ですから、何のことですか? 俺はただいつも頑張っている彼女を労っているだけですよ」

 そこから続くのはさっきまでのアリスの様子。
 自分の作ったクッキーを食べてくれた事、二人で話した内容。
 嬉々として話す様子のグレイに対して、ナイトメアは呆れ顔だ。

「もういい。お前がいかに彼女を気に入っているかはもう毎回、毎回聞いているんだ」
「何を言っているんですか? 同じ事なんて言った事ありませんよ?」
「いや、結局は単にお前がアリスを好きなだけだろうが!!」
「……」

 そこで何も言えないのがまだ彼が躊躇っている証拠だろうか?
 だが、その表情には悩んでいる様子は全く無く……ただにこやかに微笑んでいた。

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