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願事とお祭り



 現代パロ・幼馴染パロの薄桜鬼です。
 以前にバレンタインSSで書いたのと同じ設定です





「うが~~~もう無理だ!!!」

 そよそよと人工の冷たい風が流れる一室に、平助の魂の叫びが響く。

「はいはい、それ昨日も聞いたから」
「平助君、後少しで終わるから頑張ろうよ」
「そうだぞ、今やっておかなければ後々になって後悔するのはお前だぞ」

 聞き流すのが一人、励ますのが二人。
 昨日はこの励ましの声で、古典の課題を片付ける事ができたけれど、今日の平助の耳にはそんな言葉は響かなかった。

「だってさ!!こっっっんな天気が良いんだぜ!?外に出たくなっても当然だろ!?海は無理でも、プールでもいいから行きたいとか思うだろ!!」
「こんな暑い日に外に行くわけ?僕だったら嫌だね」
「涼しくなりたいのならば、今この部屋で十分だろう」
「で、でも今年の夏休みはまだどこにも行ってないもんね」

 そう現在は夏休み。しかし平助、千鶴、斎藤、沖田の学生組は夏休み開始直後から、学校から出された課題を片付ける為に毎日近藤家の居間を借りて勉強会をしていた。
 それというのも、これまで毎年のように夏休み終わり頃になって漸く焦りながら課題を片付ける平助を見続けてきた、道場生の中にいる土方、原田、永倉の教師組からの命令があったからだ。

『お前ら、今年はさっさと課題を片付けろよ?特に平助!いいな?それまでお前らには夏休みは無いと思え』

 四人(特に平助)が中学生の頃までは大目に見て、少しだけならと手伝ってくれていた土方達だったが、彼等が全員高校に進学し、しかも千鶴を除く三人が自分達の教え子になったとなると話は別のようだった。

『ならば我が家を使うといい』

 という近藤からの提案もあり、夏休み開始から数日後には勉強会が始まっていた。
 そしてそれが二週間程続き、今はもう八月に入っていた。
 斎藤と沖田は早々に全ての課題を終わらせ、千鶴と平助が解らないところを教える教師の代わりをしていた。そのおかげもあって千鶴も今日中にでも片付きそうだったが…平助はそうはいかなかった。
 二人の教えもあり、平助自身にしてみれば脅威のスピードで終わらせてきたが、残っているものが問題だった。

「あ~~~思いっきり躰動かしたい!!!」
「だったら道場の方に行って来れば?今日は土方さんが居るんだから、みっちり相手して貰えるよ」

 沖田が意地悪そうに笑う。そしてその沖田の背後には、

「俺が何だって?」

 当の本人が立っていた。

「げっ!?土方さん!?」
「寝っ転がっているとは余裕だな?平助。そうやってるつう事は当然、課題は終わったんだろうな?」

 稽古中や授業中に見せる『鬼の表情』で立つ土方の後ろには、残りの教師組…原田と永倉の姿もある。

「おおおお終わったぜ。こ…古典は昨日の内に終わらせたぜ」
「あとは数学と英語だけだよね~」
「どっちもお前の苦手教科じゃねえか」

 さすがというべきか、当然というべきか。自分の生徒の苦手教科を把握している土方だった。

「まぁ平助にしては上出来じゃないか?」
「そ、そうだよな!左之さん!!」
「それに平助だもんな、さすがに飽き始める頃だよな」
「勉強に飽きるもくそもあるか。やって当たり前の事だろうが」

 土方の言っていることも尤もだが、平助にはそれが無理だという事をよく知っている原田がこう言い出した。

「よし、平助が今週中に残りの課題片付けたら良い所に連れてってやる」
「良い所って何処だ!?海か!?」

 とたんに平助の目がキラキラと輝く、しかしそれが長続きする事はない。

「いや、祭りだ」
「祭り~~~そんないつもの所だろ?」

 平助の声のトーンががくりと落ちる。彼等の中で『夏』で『祭り』というと毎年行っている所しかない。
 来週の土曜に開催されるそれは、花火大会も兼ねているお祭りで、花火が始まるまでに屋台制覇をし、その後原田の住むマンションの屋上に移動して花火を見るというのが毎年恒例となっている。

「まぁな、でも最後まで聞けっての。お前がちゃんと課題を終わらせたら、新八が奢ってくれるぜ」
「マジか!?」
「はぁぁ!?何を言い出しやがるんだ左之!!」
「お前、競馬で当てたんだろ?可愛い教え子に奢ってやっても罰は当たらねえだろ?」
「当たるわ阿保!!」

 絶対に嫌だ!!と言い張る永倉だが、原田に説得され結局は折れることになる。しかし、一つだけ条件をつけた。

「よ、よし!!平助、お前が今度の…月曜までに残りの全部片付けたら、奢ってやる!!」
「マジか!?」
「おう!!男に二言はない!!」
「新八さ~ん。それ平助だけなの?」
「んあ!?」
「僕達はちゃんと課題終わらせた上に、平助に教えてまでいるんだけど~ねぇ一くん」
「いや、課題を終わらせるのは当然の事だ。後輩に勉強を教えるというのも…」

 予想通りに優等生な台詞を吐く斉藤を遮って、今度は千鶴に話しかける。

「千鶴ちゃんだって、今日中に全部終わるもんね。それなのに平助だけってズルイと思わない?」
「え?え!?」
「ああもう解ったよ、お前ら全員の分奢ってやるさ!!」
「言ったね、新八さん」

 ニヤリという効果音がこれ程似合う笑顔はあるだろうか、というくらいの良い笑顔で沖田が笑う。
 そして、クルッと平助の方を向くと

「平助、解ってるね?何が何でも終わらせるんだよ?四日もあれば余裕だよね?」

 今度は目が全く持って笑っていない笑顔を向けた。その瞬間に部屋の温度が低くなった…と、後になって平助は言った。


        ○●○●○●


 本人の執念と、沖田の脅し効果もあり、無事に課題を全て片付ける事が出来た平助。
 その正解率については、「九月を楽しみにしてるぜ」と教師三人に言われたが、ともかくこれで生徒組四人は勉強から解放され、永倉との約束も守れた。
 どうやら絶対に無理だろうと予想しての条件だったらしく、がっくりと項垂れている永倉が居たが、それは全員に無視されていた。
 そして、夏祭り数日前。当日の待ち合わせなどを決めている内に話は意外な方向になった。最初にその話題を振ったのは原田だった。

「浴衣ですか?」
「ああ、たまには浴衣をきて花火見物も良いんじゃないか?てな」
「千鶴ちゃんも着てきてよ。野郎の浴衣見たってつまらないからさ」
「私もですか!?」
「なんだよ千鶴…浴衣持ってないのか?」
「む…むしろ、皆さん持っているんですか?」

 その千鶴の問いに全員が「ああ」と肯定した。
 正確に言えば、山南の実家から借りるという事らしい。そこで千鶴は初めて山南の実家が呉服屋だと知った。

「雪村くんも、山南くんの所で借りれば良いではないか。彼に頼んで何枚か持ってきてもらおう、その中から好きなのを選ぶと良い」
「え、でも…」
「山南くんも良いだろう?」

 この日、タイミングの良い事に山南も道場に来ており、彼はいつも穏やかな笑顔でこう言った。

「もちろんですよ。では明後日にでもどうでしょうか。雪村くんの好きな色や柄など教えてくれますか?君の気に入りそうな物を持ってきますよ」

 こうして千鶴も山南の好意に甘える事になった。


        ○●○●○●


 そして約束の日。山南が持ってきたのは五着、その中で千鶴が気に入ったのはちょうど最後に見せられた物だった。

「これが気に入ったようですね」
「は、はい…」
「ではこれにしましょうか。…そうですねこれに合う飾りとなると…」

 今度は髪飾りを選びましょうか、と山南は隣の部屋に荷物を取りに行った。
 残された千鶴は、急遽部屋に置いてもらった姿見の前でクルリと一回転してみる。
 子供の頃以来の浴衣。いつも下ろしたままの髪型も簡単なお団子状になり、鏡の向こうに居るのがまるで別人の様に見える。

「雪村くん、今…平気かい?」
「あ、はい」

 浴衣の試着会をしている事を知っている近藤が様子を見に来た。

「ほう…」
「あ、あの変でしょうか…」
「何を言っている。とても似合っているぞ」

 そう言うと近藤は千鶴のすぐ目の前まで近づき、髪に触れた。
 それはまるで幼い子供の頭を撫でるように。でもセットした髪型を崩さないようにしているのか少しだけぎこちない撫で方。

「また君のこういった姿が見られるとは思わなかったな…やはり君には女の子らしい格好が一番似合うな」
「??」

 本当に懐かしそうに言う近藤に千鶴は何も言えなかった。
 それは幼い頃から見ている少女の成長を喜んでいるようにも取れるが、そういう意味ではないと気付いた。
 でも、本当の意味を聞く事は千鶴には出来なかった。

 その後すぐに髪飾りを持ってきた山南に合わせてもらい、ついでに着付け方も教えて貰って、試着会は終了した。
 二人以外に見せるのは当日の方が良いだろうと山南に言われたので、早々に千鶴は洋服に着替え、少しだけ三人でお茶を飲んでその日は帰宅した。

「やはり女性の浴衣姿は華やかですね」
「随分と楽しそうだったな山南くん」
「ええ。いつもこの家で着付けとなると男ばかりでしたからね、賑やかなのは良いのですけどね」
「そうだな…しかし、懐かしい気分になってしまったよ」
「懐かしい…ですか?」
「ああ、昔…彼女に浴衣を贈った事を思い出したよ」
「おや、そんな事もあったんですか」

 彼女が帰った後も二人のお茶会は続き、懐かしいというには遥か遠い記憶での思い話が二人の間には咲いていたが、それを千鶴が知る事はないだろう。
 十年ほど前に再び目の前に現れた少女の幸せを、彼等が願い続けている事も千鶴はまだ気付いていない。
 それに気付くまでにはまだ少し時間が必要だった。

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